意地悪な副社長との素直な恋の始め方


超能力者かと思うほどズバズバ言い当てたシゲオは、じいっとわたしの顔を見つめ、何か思いついたように頷く。


「そうねぇ。いまのままでも悪くないんだけど、もうちょっと隙があった方がキスを誘いやすいわ。口紅は、マットよりもうるツヤ。サンプルで貰った新作があるから、そっちにしなさい」

「え、別にキスを誘わなくても……」

「キスしたくないの?」


キスをねだるつもりはないけれど、朔哉と並んで歩いても恥ずかしくない程度では、ありたい。
とは言え、恋人同士でもないのに、張り切り過ぎはNGだろう。


「そ、そういうわけじゃないけど……。でも、あんまり力入ってるのもどうかとおも……」


ほどほどでいいと言おうとしたら、真顔で叱られた。


「中途半端なメイクをしたアンタが、朔哉レベルのイケメンの横にいるなんて、わたしが許せないのよっ!」

「……す、スミマセン」


大人しく、シゲオにオススメの口紅を塗ってもらい、「ほら!」と突き出された鏡を見ると、ピンク味を帯びた赤い唇は、ツヤツヤでうるうる。心なしかふっくらしている。


「……イイかも」

「でしょ? 好きなひととデートするのに、アレコレするのはちっとも悪いことなんかじゃないわ。あざとくってもいいの。だって、好きなひとには一番キレイでカワイイ自分を見てほしいって思うのは、当然なんだから」

「……そういうもの?」

「そういうもの! で、今回のデート、朔哉は何て言って誘ってきたのよ? この前、食事に行ったんでしょ? すでに元サヤに収まったのかしら?」


ニヤニヤ笑うシゲオに、隠しごとや秘密は通用しない。
朔哉に言われたありのままを説明する。


「そうじゃないけど……最初から、やり直したいって言われた」

「最初から? やり直すって、セフレを始めたところからってこと?」

「たぶん……」

「ふうん……なるほどねぇ」

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