意地悪な副社長との素直な恋の始め方

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(いい加減……終わりにしなきゃ)


いまさらだけれど、自分は何一つ割り切れていなかったのだと気が付いた。
電話で芽依と話しているのを聞いただけでも、簡単に過去の痛みがよみがえる。

結局、わたしは朔哉のように強くはなれなかった。
だから、苦しい恋に囚われた朔哉を置き去りにして、自分だけ逃げようとしている。

ぎゅっと目を瞑り、深呼吸を一度してから再び目を開けた。

スマホを取り出して、震える指で朔哉の電話番号を着拒にし、SNSなどのアカウントもすべてブロックする。

そうしなければ、彼が電話なりメールなりしてくれるんじゃないかと期待してしまうから。
彼に繋がる手段のすべてを断ち切らなければ、きっと終われない。


(仕事も、辞めよう)


このご時世、せっかく入ったホワイト企業を辞めるなんて罰当たりと言われてもいい。
一つでも、朔哉との繋がりを残したら、思い切れなくなるのは、わかっている。

三か月くらいは食べていけるだけの貯金もあるし、大学生の頃のように――あの頃よりももっと遠くへ、撮影旅行に出かけてもいいかもしれない。

少しの間、負け犬として傷を舐め、それから人生をリセットするのだ。


「足元、お気をつけてお降り下さい。ありがとうございました」

「どうも……」


タクシーの運転手は、気まずい沈黙を破ることなく、駅前の繁華街の裏通りに建つ古びた木造アパートへ送り届けてくれた。

安い家賃とリフォーム自由だけが取り柄のアパートは、いまのわたしにとっては傷を癒せる唯一の場所だ。

錆びた階段を上り、ガタつくドアを開け、真っ暗な部屋を見て首を傾げた。


「ナツ? いないの……?」


今朝、わたしが部屋を出る時にはまだ寝ていたが、仕事へ行ったのかもしれない。

今日は金曜の夜。
彼女が働くラウンジ・バーは当然混み合っている。
失恋による欠勤も、三日以上は許されまい。


(ま、忙しくしていた方が辛いことも早く忘れられるだろうしね)


惚れっぽいナツは、きっとすぐに次の恋を見つけるだろうと思いながら、部屋の電気を点けた瞬間、あり得ない光景が目に飛び込んで来た。


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