恋愛計算は間違える(アルバートとテレーサ)

ブランシュール城・土曜日・13時 13-16ページ

<ブランシュール城・土曜日・13時>

朝早くアルは村の市場に向かった。

規模が小さいが、
新鮮な野菜や卵、ミルクが手に入るのはありがたい。
それに車の修理部品も買わないといけない。

昼過ぎに
アルは部品の請求書を手に、
館の扉を叩いた。

案の定、鍵が閉まっている。

昨日のテレーサの様子が気になったが、何か用事がなければ館には入れない。

アルはダイアナから何かあった時には・・
という名目で、玄関の鍵を預かっていた。

アルは鍵を開けた。
玄関ホールは日中でも薄暗く、
冷え冷えとして静かだった。

「テレーサ様・・
いらっしゃいますか?」

ここは女子修道院だが・・・
仕方がない、
用事があるのだからとアルは自分に言い聞かせていた。

微か(かすか)にオルゴールの音色が聞こえてくる。

♪~
温室の方からだった。

温室は館より少し温かく、植物が茂っていた。
蘭の香りが(かぐわ)しい。

その木の陰で
テレーサが、(とう)の椅子にもたれるように座って・・
眠っている・・

いつもの喪服にショールを巻いて、髪は束ねていないので、
銀の髪が流れるように垂れていた。

それは、時が止まったままの・・
まだ幼い少女のように見えた。

顔色が相変わらず悪い・・
椅子の側にはテーブルがあり、
固いパンが数枚、

これまた固くなって干からびた
チーズ、冷めた紅茶が置いてあった。
<まったく鳥のエサか・・?>

「テレーサ様・・」
アルは呼びかけた。
テレーサはうっすらと目をあけた。

「ああ、ロランドさん・・
今日は・・お休みですよね・・」
反応が何となく鈍い。

群青の瞳の焦点が
合っていないようで、ひどく疲れているようだった。
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