おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件
 うちの会社では残業が当たり前。といってもブラックなわけではなく、みんな『仕事が好きで仕方がない』という人が多い。こんな時間でも時々、内線が鳴ったりする。
 午後九時近くになっても、フロアには人影がちらほら。うちのチームもそう。
 楢橋さんは接待があるから、と、早々に会社を出たけど、二人の先輩はまだパソコンの画面とにらめっこ中。
 私は、ちょうどキリのいいところまでできたので、そろそろ帰ろうかな、というところ。

「神崎さん、キリがよければ、もう帰ったら?」

 パソコンから目をはずして、ニッコリ笑う本城さんも、ちょっとお疲れのご様子。

「はい、お二人は?」
「私は、もうちょっとかかるかなぁ。」
「あ、俺も。明日使いたい資料が、まとまらん!」

 うがぁぁっと叫びをあげる笠原さんを、うるさいっ! と叱る本城さん。ベストカップルだわ~。

「……なんか今、変なこと思ってない?」

 冷たい視線の本城さんに、一瞬、固まる私。
 ……ワタシノココロガヨメルノデスカ……

「あ、あの。でしたら、コーヒーでもいれてきますよ。」
「お、わりぃ」
「いえいえ。何もお手伝いできないんで、これくらいは……」

 苦笑いしながら給湯室に逃げ込んだ。実際、今の二人の仕事に手を貸せないから、仕方がない。
 インスタントのコーヒーもあるんだけれど、頑張ってるお二人にはちゃんとコーヒーメーカで入れたい。コポコポと音をたてながら、給湯室はコーヒーの香りで充満する。この香りをかぐだけで、なんとなく幸せな気分になる。
 食器棚から、二人のマグカップを見つけて取り出す。笠原さんのはちょっとゴツくて大き目の黒、本城さんのは白地に猫の足跡が描かれた物。

「はい、コーヒーです」
「ありがとうねぇ」

 パソコンの画面から目を離さずにマグカップを受け取る本城さん。

「おい、気をつけろよ。本城」
「はいはい」
「あ、笠原さんも。」
「お。サンキュ。」
「それじゃ、申し訳ないんですがお先に失礼しま~す。」
「お疲れ様~」
「お疲れ様~」

 二人の声が重なる。思わず顔を見合わせ、笑い合う先輩二人に見送られながらフロアを出ていく。ついつい、私の方もニヤニヤしながらエレベーターホールに向かった。
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