おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件
 まるで薄い仮面を張り付けたように、私は薄っすら笑顔を作る。
 コーヒーを淹れるために、遼ちゃんから離れた。
 自分のカップを取り出しながら、ふりかえる。

「遼ちゃんも飲む? コーヒー」
「うん」

 背中に彼の視線を感じながら、コーヒーメーカーをセットする。

「それじゃあ、さぁ」

 立ち上がった気配がする。

「うん」

 背後に来たかと思ったら、ぎゅっと抱き締める遼ちゃん。柔らかな彼のウッディな香水の匂いとともに、思いがけない爆弾を落とした。

「籍、いれようか」
「……は?」

 振り返りたいのに、遼ちゃんに抱き締められて、身動きできない。

「な、何いってんの?」

 私の肩に、顎を乗せながら覗き込んでくる顔は、王子様のご機嫌な笑顔。

「だーかーらー、籍、いれようかって」
「ちょっ!? えっ? え? ……り、遼ちゃん、頭、大丈夫? ま、まさか、今頃、この間の怪我の症状でた!?」

 慌てる私をよそに、軽く、耳を噛む。
 甘い、甘い、痛みに、余計に混乱する。

「あっ!」

 首筋に柔らかい舌が、すうっと這う。

「全然、まともだよ……ねぇ。だめ?」
「だ、だめっ」

 肌に触れる唇、チュッと響くリップ音。

「もう、流されちゃいなって」

 低く、諭すような声に、心臓はドキドキ。
 身体はもう、遼ちゃんを求め始めてる。
 だけど!

「ダメったら、ダメっ!」

 思い切り、私の肘鉄が炸裂した。

「ぐはっ!?」

 床に倒れ込んだ遼ちゃんを、顔を赤くしながらも、『氷の女王』のような眼差しで見下ろす私。

「あ、甘えるんじゃないっ!」
「み、美輪?」

 顔を引きつらせても、もう遅いんだよ、遼ちゃん。

「本当に、本気で勉強しに行くなら、私無しで行ってきて。逃げ道作って行くなんて、情けないっ。ちゃんと、帰ってくるんでしょ? だったら、ちゃんと帰ってきてよ。私は、待ってるからっ!」

 ああ、言葉を続けていくうちに、涙が出てきた。
 なんでかなぁ、最近、涙腺ゆるすぎ。遼ちゃんの顔が見られない。
 そんな私を、立ち上がった遼ちゃんが、いきなり強引に抱き寄せた。

「ごめんっ、ごめんよ……」

 徐々に力が込められてく。ちょ、ちょっと……か、加減して……。

「く、苦しいっ」

 そんな私の呟きに気付きもしない遼ちゃん。

「僕が、ダメなんだ……自信がないんだよ……美輪を……美輪を、本当に僕のモノにしとかなきゃ、離れちゃうんじゃないかって」

 より一層、グゥッと力が込められる。い、息がっ!

「も、もう、離してっ……」
「あ、ああっ! み、美輪っ!?」

 やっと気づいてくれたのか、ようやく身体を離してくれた。

「ゲホゲホッ、し、死ぬかと思った」
「ごめん、ごめんよっ」

 顔が真っ青になって、オロオロしていても、遼ちゃんはやっぱり、王子様だわ。
 咳き込みながらも、そんなことを思って、苦笑いする私だった。
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