おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件
 秋が深まっていくのと同時に、私の気持ちもどんどんと落ち込んでいく。
 あれから、遼ちゃんとは留学の話はしていない。
 兵頭さんの話も。入籍の話も。
 そして、遼ちゃんの留学のために旅立つ時間も迫っていたのも、わかってた。

「神崎さん」
「あ、おはようございます」

 エレベーターホールで、外出する本城さんと会った。

「なんだか、最近、暗いわねぇ」
「そうですか?」

 そう言われても、出てくるのは、苦笑いばかり。

「今日、ご飯でも行く?」
「あぁ~」
「予定あるの?」

 遼ちゃんとの約束はない。最近は、毎日、会社と家の往復だけ。
 たまには、いいよね。

「いえ。予定はないです」
「じゃ、遅くても七時までには、仕事終わらせよう」

 本城さんは、「じゃあねぇ~♪」と、手をヒラヒラしながら出て行った。
 今日は、いつもより一日が楽しみになった。



 まだ、数人が残るフロア。パソコンのキーボードを叩く音が微かに聞こえる。

「神崎さん、どう?」

 本城さんが声をかけてきた。壁にかかっている時計は、もうすぐ七時を指すところ。

「あ、はい、もう出られます」

 私はすぐに、パソコンをシャットダウン。

「なんだよ、お前ら、もう終わりか。羨ましいな」

 書類をチェックしていた笠原さんが目を向けた。

「たまにはね」
「どこか行くんですか?」

 同じように書類チェックしている関根くん。
 すっかり、笠原さんの忠犬になってしまっている。

「二人でデート。邪魔しないでよ」
「邪魔しませんよぉ。俺にはそんな暇はないです」
「ははは。何、関根くんは、これからデート?」

 本城さんは、容赦ない。

「大きなお世話です。」

 関根くんは、元カノと復活してからは、プライベートもかなり忙しいらしい。

「じゃあ、お先に~♪」
「お先に失礼します。」

 私たちは、足取り軽くフロアを出る。
 エレベーターホールには、私たちしかいない。

「今日も、あの店でいい?」
「あ、はい。私はちょっと久しぶりです」

 最近はあまり遅くなることがなかったから、ほとんど自炊していた。いつ遼ちゃんが来てもいいように。

 ――ちょっと頑張りすぎてたのかな。

 少しだけ、反省してみる。
 他愛無い話をしながら歩いていると、すぐに店にはついてしまう。

「いらっしゃいっ」

 女将さんの気持ちのいい声が出迎えてくれた。
 久しぶりだけど、『いつも』な気がするこの店は、私にとっても居心地のいい店になっている。

「あら、神崎さん、お久しぶり」

 ニコニコと笑いながら、女将さんが、おしぼりを出してくれた。

「ご無沙汰してました」

 照れ笑いしながら、温かいおしぼりを受け取る。

「今日は、少し飲もうか」
「え、明日も仕事ですけど、大丈夫ですか?」
「ん~、たまにはいいでしょ?」
「……いいですかね」

 私たちは二人で顔を見合わせながら、笑った。
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