おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件
 帰り道の秋の風が、もう随分と冬に近づいていることを教えてくれる。
 アルコールで少しだけ、身体が熱くなってる自覚はある。だから、今、この風は気持ちいい。駅からマンションまでの道すがら、とても遼ちゃんに会いたくなった。

 ――一緒にいたいなぁ。

 玄関を開けて、冷たい一人の部屋。

 ――これが、二年間? でも、二年も待てるの?

 やっぱり、この季節は嫌だ。いろんなことを、後ろ向きに考えてしまう。
 そんな時、充電していたスマホに、電話の着信。

「はい」
『今から、行っていい?』
「え、今どこ?」
『僕の部屋』
「……いいよ」

 まるで、私の気持ちがわかってたみたい。
 通話を終えると時をおかずに、玄関のチャイムが鳴る。

「こんばんわ」

 ドアを開けるといつもの王子様の笑顔が、少し寂しそうに見えた。
 私の気のせいだろうか。

「いらっしゃい」

 玄関先での軽いキス。そしてハグ。これが日常になったら、私は幸せになれるのだろうか?

「お酒の味がするね」
「先輩と飲んできたから」
「男の先輩?」
「違うよ」
「そっか」
「今日は、どうしたの?」

 いつもより、醸し出す雰囲気が甘い気がする。

「……留学、決まった。」

 遼ちゃんは俯きながら、小さな声でそう告げた。

「そっか」
「一人で行ってくるよ」
「うん」

 そうだよ。遼ちゃん。
 あなたなら、大丈夫。きっと大丈夫。

「絶対、二年で戻ってくる」

 少しだけ、ギュッと抱きしめて、耳元で囁いた。

「……だから。やっぱり、僕と結婚して」
「はっ!? 何言ってるの!? 言ったじゃないっ。待ってるって言ったよね?」
「うん、でもね、ずっと考えてたんだ。」

 見つめる目は、いつも以上に真剣だ。

「美輪に情けないって思われても、やっぱり、我慢できないよ。僕がいない間に、美輪が他の人のものになっちゃうかもしれない、そんな可能性を残してるとか、思っただけでも嫌だし。そんな不安なまま、勉強できるって自信はない」

 絞り出すように言う彼の声が、私の心臓をつかむ。

「だから、そんな心配しないでいられるように、僕が、この先、どんなことがあっても、がんばれるように。美輪のこれからの人生、僕にちょうだい。」
「……簡単に言ってくれるよね」

 人生だなんて大袈裟なことを、軽々しく言う遼ちゃんに、少し呆れたように返事をする。そうやって、自分でも誤魔化してるってわかってる。

「簡単じゃないよ」
「……私が信じられない?」
「美輪は信じられるけど、美輪の周りは何があるかわかんないから」
「そ、そんなの遼ちゃんだって、そうじゃないっ」
「だから。美輪のモノにしてよ」
「なっ!?」
「僕の人生、美輪にあげるから。美輪の人生、僕にちょうだい。ねっ?」

 ……ううううう。
 満面の王子様スマイルなんて、反則だよ。
 
「じゃ、じゃぁ、兄ちゃんに許可とって」

 私は必殺の『兄ちゃん』ブロックをかますのだけれど。

「うん。もう話してる」
「へ?」
「あ、おじさんも、おばさんも了解とってるから。」
「は?」
「あー、事務所的には、留学から戻ってきたら公開ってことになってるけど」

 唖然として声が出ない。

「あと、何か問題ある?」

 ニッコリ笑う遼ちゃん。
 私が、うじうじと考えている間に、この人は裏工作してたってこと?

「……私、遼ちゃんのご両親に挨拶してない」
「あ、忘れてた。でも、うちは大丈夫だと思うけどな。じゃあ、今度、うち来る?」
「そんな、あっさり……そ、それに、兵頭さんの件はどうなったの」

 これも、まだ、すごく気になること。

「嫌がらせの犯人は、捕まったよ」
「えっ。だ、誰?」
「知りたい?」

 さっきまでの甘い顔が、一気に真面目な表情に変わる。
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