婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
「そうだといいのですが。でも婚礼の儀は日が暮れてからなんですよね。暗くなってから行うなんて初めて聞きました。ここはなにもかもが常識を外れています」

ディナは依然として不満そうだ。きっと不安が募り口数が多くなっているのだろう。

アレクシアも落ち着かない気持ちで溜息を吐いた。


その後、ルーサーが言っていた彼の部下がやって来た。

年輩の女性で、この城の侍女長を務めているという。部下としてふたりの若い侍女を伴っていた。

移動中は女性の使用人を全く見かけなかったけれど、侍女はいるようだ。

彼女たちの手を借りて公爵家が用意した純白のドレスに着替え、髪は上品な形に結いあげる。真珠の髪飾りなどの装飾品を身に付けると、公爵の妻としても相応しい装いとなり、急いで用意したとは思えないほど、アレクシアによく似合っていた。

日没後の神殿は、薄暗く陰鬱な雰囲気に包まれていた。

婚儀はアレクシアの家族はもちろん、公爵家側の参列者もなく、驚くほど簡素化されていたものだった。

メイナードは、正装なものの仮面は着けたまま。

(こんなときでも仮面……どうしても素顔を見せたくないのでしょうけど、顔も知らない相手と儀式をすることになるなんて……)

早くも気持ちが沈むのを感じた。

沈黙の中、城の石壁にびゅうびゅうと叩きつける風の音がこだましていた。
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