婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
先ほどから怪しかった天候が瞬く間に悪化して空から雨が降ってきた。叩きつけるような激しい雨音に司祭の声が飲み込まれてよく聞こえない。

祝福する者がいないだけならまだしも、天候にまで見放されたようなこの状況に、さすがに不安が襲ってくる。

清楚な花嫁衣裳に着替えたときは少し心が浮き立ったが、今はただこの時間が早く終わるのを願っている。

しばらくすると、司祭の声の調子が変った。

なんと言ったかアレクシアには聞こえなかったけれど、メイナードが動く気配を感じた。

彼は正面に向いていた体をアレクシアの方に向ける。恐らく誓いの口づけをするのだろう。

(でも、仮面を付けたままでは、キスは無理だと思うけど)

一体どうするつもりなのか。様子を伺っているとメイナードが突然躊躇いなく仮面を外した。

まさかそんなに簡単に外すとは思っていなかったので動揺する。

そして次の瞬間、アレクシアはさらなる驚愕に襲われた。

メイナードの顔には墨で描いたような曲線が走っていた。左目を中心に広がるそれはまるで茨(いばら)だった。ところどころ密集した線は、まるで古代文字のようにも見える。

見る者を不安にさせるような、本能的な恐怖を覚える紋様だ。

ドクンドクンと心臓が早鐘を打ち、冷や汗が背中を伝う。
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