婚約破棄されたので薬師になったら、公爵様の溺愛が待っていました
アレクシアが表情を曇らせたことに気づいたのか、ルーサーは励ますような明るい口調で言う。

「ありがとうございます。ですが私のことはお気遣いなく。ディナもいますから」

「いいえ。アレクシア様が健やかに過ごせるよう努めよと、メイナード様に厳命されております。なんなりとお申しつけください」

「旦那様が?」

「メイナード様はお優しい方です。アレクシア様もそのうち分かると思いますよ」

(でも、私に優しくしてくれることなんてあるのかしら?)

彼は、アレクシアを疎ましく感じているのではないのだろうか。

今のところ会話がほとんどないので、考えが分からない。

「あの、旦那様はしばらく戻らないと仰っていましたが、どちらに行かれたのですか?」

「南方に位置する〝間の森〟の砦です」

「間の森……話には聞いています。この国の魔獣はすべてそこから生まれるのだとか」

その原理は未だ解明されていないが、森の中にアレクシアたちの住むこの世界と、異界を繋ぐ扉があると言う。

ふたつの世界の間にある森だから、間の森と呼ばれるようになったそうだ。

「旦那様は、魔獣の討伐に行かれたのですか?」

「はい。ブラックウェル公爵家の最大の役目は、間の森の監視です。今回、とくに強い魔獣が現れたため、メイナード様自ら騎士を率いて向かいました」
< 36 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop