政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
プロローグ 金曜日の夫婦の夜
 甘いチェリーの香りがするふわふわの泡を手に取って、朝比奈柚子(あさひなゆず)はごしごしと身体を洗っている。
 腕や脚、お腹、背中、それから爪の先にいたるまで、丁寧に、万が一にでも洗い残しがないように。
 金曜日の夜のバスタイムだけの大事な習慣だ。
 もちろん、普段だって身体は洗う。顔だって、髪だって。
 でも金曜日の夜は特別だった。
 特別に綺麗に洗うのだ。
 すべてを入念に洗い終えた柚子は、シャワーで泡を洗い流す。ちゃぽんと温かい湯船に浸かると、ふぅーと長い息を吐いた。
 目を閉じると、おのずと頭の中に浮かぶのは、この後自分の身に起こるであろう出来事。柚子は真っ赤に頬を染めた。
 こうやって金曜日の夜をむかえるのはもう何度目になるだろう。
 結婚して半年。
 たくさんの夜を過ごしてきたというのに、いつまでもはじめての時とまったく同じように胸が張り裂けんばかりにドキドキする。
 大好きな人に抱かれるという喜びと、でもそれは愛ではないという切ない気持ちが入り混じった、複雑な音だった。
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