政略結婚ですが、身ごもったら極上御曹司に蕩けるほど愛されました
「わぁ、すごい‼︎」
 深いブルーの巨大な水槽を見上げて、柚子は声をあげる。
「水族館なんて久しぶりだな」
 隣で翔吾が呟いた。
 臨海公園の敷地内にある水族館である。
 そう大きくはないこの水族館には、家族で来た時も立ち寄った。あの時よりも施設としては少し古くなっているけれど、その分日曜日の今日もあまり混んでいなくて、ふたりはゆっくりと中を散策することができている。
「あ! イワシの群れ! すごい大群だね。ぶつかったりしないのかなぁ。ふふふ、あんなにたくさんいるなら、今夜の夕食に何匹か欲しくなっちゃうね」
 水槽の中を見つめながら思い付くままの言葉を柚子は口にする。
 翔吾がくすりと笑みを漏らした。
「なに? 翔君」
「いや、変わらないなぁと思って」
「なにが?」
「柚子だよ。昔皆で来た時も、そうやってはしゃいでた。俺、本当はあの時、中学生にもなって親と水族館なんてってめちゃくちゃ嫌だったんだけど、柚子がすっごく楽しそうだったから、途中からはまぁいっかって思たんだ」
 翔吾の言葉に柚子は頬を染める。
「それって私、あの頃からあまり成長してないってことだよね……」
「いや、そうじゃなくて」
 翔吾が首を横に振った。
「柚子のそういうところが俺好きなんだよ。なんでも素直に喜ぶだろ。いつも楽しそうだし。そのままでいいよ」
 ストレートに褒められて柚子の頬はますます真っ赤になる。彼の、なにげない、本当に深い意味なんてないような"好き"という言葉にここまで反応してしまうのが恥ずかしかった。
「で、でも、お姉ちゃんはすごかったよね。小学生の時に海の生物っていうテーマの自由研究で賞を取ったじゃない? だからここでもたくさん魚の名前を知っていて……」
 頬の火照りを誤魔化したくて柚子は適当な言葉を口にする。
 それに翔吾が首を傾げた。
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