下弦の月
「月香は…なぜ、倒れていたんだ?」






気になっていた事を聞いたが、






あまり覚えていない。という答えだった。






少し不思議に思ったが、もし何かあるなら。






いつか話してくれるだろう。と深く聞かずに、






「何かあったら…頼れよ。」






そう言うと、笑顔をくれた。







その後は、今まで特に話した事もない。



話す必要もなかった、俺の昔を話していた。






ただ、それを相槌を打ちながら聞いてくれていてくれたが。






瞳は切なそうで、話が終わると抱き締めていた。






「どうして…そんな瞳をする?」







「いえ…新撰組での…土方さんは…何かあっても自分の感情を押し殺してる気がして…」







なんて、心を見透かされた気がした。






「ならば、月香にだけ甘えていいか?」






はい。と頷いてくれた月香を更に強く抱き締めれば、






もうすぐ起こるであろう長州の連中の取り締まりの喧騒の、忙しさで疲れていた身体も心も落ち着けた。








どれだけ、抱き締めていたのか……






八重が襖越しに、月香を呼びに来るまで抱き締めていて。






近付く足音で、身体を離して。






「暫くは忙しいが落ち着いたら、迎えに行く。」






そう伝えると、待ってます。笑顔で言ってくれた。








月香と八重の足音が遠ざかって行く、



俺は部屋を出て、部屋の前で月香が見えなくなるまで見つめていた。
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