下弦の月
どうも、部長の強引さを垣間見ると調子が狂ってしまう。



好きなんだって自覚した今は尚更なのかもしれない。






そう思いながら、私が選んだネクタイは。





淡いピンクに茶色とライトグリーンの水玉模様のもの。






「俺だったら絶対に選ばないな…でも、いい趣味してんな。」






「…柊輔さんは、いつもグレーか紺とかが多い気がして…」





「よく、見てんな…」






って…言われれば照れてしまう。







こういう、意地悪に微笑んで照れてる私を見て楽しんでるような、





部長も悪くないって思う私はかなり……





この人に翻弄されてる。







ついでに、無くなりかけていた私の香水を買うのを付き合ってもらうと。






「月香の香水、これだろ?」





匂いを嗅ぎながら。





「これ、好きだな。」





呟くように言われた、甘くもないキツくもない。




フレッシュグリーンの香りの香水。






「ずっと、これ着けてろよ?俺の香水と混じっても嫌じゃない香りだしさ。」





それって…




自惚れていいんですか?





部長も、私を少しでも見てくれているんだって。







自分の香水も手に取った部長は、




ついでだから。と一緒に買ってくれて。






「ありがとう、今度…お礼します。」








「お礼か…それなら…今度、また二人で出掛けてくれるって約束が香水のお礼ってのはどう?」






頷いた私の髪を撫でて、優しい微笑みをくれた。








たった半日で、こんなに好きになってしまうなんて。



あの後、家まで送ってくれた。




父とご飯を食べながら、お風呂に入りながら、




部長の言動の真意を考えていたけれど、




出るはずのない答え。





結局、ほとんど眠れずに朝を迎えた。





重たい身体を起こして、リビングに降りて、



二人分の朝御飯を作って、起きて来た父と。




もうすぐ兄の三人目の子供が産まれる話をしていたら、



少しだけ気分も晴れた気がした。
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