下弦の月
「土方さんとは、試衛館からの付き合いなんだが…京へ来てからは、土方さんの穏やかな表情は見てねぇんだよな。」







でも、







「さっき、月香と来た時の土方さんは…穏やかな表情をしてたんだ。本当は、すげぇ優しい人なんだけどな…新撰組のため、局長を守るために心を鬼にしてんだ。」







私の知る新撰組は、幕府のためと謂えど、




治安と称して人を斬る、隊士であっても厳しい罰則で規則を破れば、切腹をさせる集団で。






冷酷非道、その副長が土方さんで噂通りの鬼に違いない。







そう、思っていたけれど……まだ出会って間もない私には、そんな風には見えなかった。






原田さんの言う土方さんが、本当の土方さんなんだと思う。






「私も、決して根っこから冷たい人ではないと思います。」







「そうか。けどな…俺らでは、土方さんの心の拠り所にはなれねぇ。だから、月香…土方さんの拠り所になってやってくれ?」







「土方さんがどう思ってるかはわかりませんが、拠り所になれたらなって、思ってます。」







「なら、頼んだ。それと…安心しろ!土方さんは、月香に心を許してると思うぜ。」







ニカッと、無邪気な笑顔で私に盥の水を豪快にかけた。






「冷たいっ!」





「暑いから、気持ちいいだろ?」






「だったら、お返しです!」






私も、原田さんに水をかける。







それを、暫く繰返して。






戯れていると……






「さすがに、そろそろ片付けないと日が暮れちゃいますよ?」






「そうだな。さっさと片付けるぞ。」






無言のまま、黙々と洗濯物を片付けた。
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