下弦の月
「姉ちゃん、つきこって言うのか?」







背中越しに、原田さんの声がして。







「はい、よろしくお願いします。」







原田さんの隣に腰を下ろして、もうひとつの大きな盥の中の洗濯物に手を伸ばした。







「どう、書くんだ?」







「月に香ると書きます。」







「そうか。綺麗な名だ。俺は…原田佐之助。こちらこそ、よろしくな!」







「はい!ありがとうございます。」







おう。と、手を休めていた洗濯物に取り掛かりながら。







「ところで、月香は…土方さんのコレか?」






右手の小指を立てて、私に向けて笑みを含んで。






そう、聞かれて……







「違いますよ。八重と土方さんに倒れている所を助けて貰ったんです。」






「なんだよ…」







つまんない、とでも言いた気に盥に視線を移した。






私だって……土方さんの心に少しでも入り込みたい。






だけど、私はいつかは自分の時代に戻る身で。




ギュッと胸が締め付けられる。






この瞬時……土方さんに恋をしてしまったんだ!と気付いた。







原田さんの視線を感じて、土方さんへの気持ちを気付かれたような気がして。







「なかなか、落ちないですね?」







洗濯板に、着物を擦りながら…咄嗟に言ったが。






「落ちねぇな……って、月香は土方さんを好いてんだろ?」







やっぱり。







素直に打ち明けていいのか、躊躇してしまっていて。







「俺は…別に構わねぇと思うぜ。」






きっと、何となくだけど……諦めろ。と言われると思っていたから、







えっ?と聞き返していた。
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