下弦の月
その頃、屯所ではーーー。










「今日、花火だろ?」






「そうみてぇだな、俺は島原で見るけどな。佐之は?」






「そうだな…八重が来るなら、八重の浴衣姿が見たいしな…来るかわかんねぇからな…保留にしておいてくれ?」






「なんだ、佐之は八重ちゃんに惚れてんのか?」






「さぁ…な。」






「まあ、いいさ。お前が来ないなら平助でも誘うからよ。」









そこへ、巡察から帰って来た沖田が割り込んで。








「佐之さん…八重さんに惚れてるだ?」






「総司!いつから聞いてたんだ?」






「最初からですよ。八重さんは、月香ちゃんと来ると思いますよ。巡察中に会って、月香ちゃんに教えてあげましたから。」






「そうか…なら…俺も花火を見に行くわ。悪いな、新八…平助と行ってくれ。」






「わかったよ、八重ちゃんによろしくな。」






片手を上げて、平助の部屋に向かった新八が見えなくなってから。








「今から、土方さんに月香ちゃんを迎えに行くように伝えに行くんですが…一緒に来ますか?」






「あっ…ああ。」




土方の部屋の前で沖田が声を掛けると。






なんだ?といつもの土方の面倒臭そうな声がして、襖を開けると。





藍色のかすりの浴衣に袖を通している土方の姿があった。






「なんだ?伝えに来るまでもなく…行く気で居たんだ。」






「あぁ?何がだ?」






「花火ですよ、月香ちゃんと行くつもりだっんでしょ?浴衣なんて着てるんだから…」






「…っ…そうだが…それがなんだ?」






「いえ…別に…楽しんで来て下さいよ?」






ニヤッと笑って去って行った沖田を見ながら。






「月香を迎えに行くのか?」






「ああ、原田も行くのか?」






「おう。八重も行くみたいだしな、一緒に迎えに行ってもいいか?」






「構わねぇよ。もし、持ってんなら原田も浴衣着て来いよ。」






「そうだな。着替えてくるわ。」






「おう。屯所の前で待ってるぞ。」





「あいよ。」









襖を閉めて、去って行った原田を見送って。





原田は八重を好いてんのか?



まあ…どうでもいいが…




などと、呟きながら。

土方は、浴衣の帯を巻き始めた。
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