下弦の月
「どうして泣くのですか?」






山南さんの冷たい手が私の頬に触れて、涙を拭ってくれたから。





私は、堪えきれずに。




自分の事を話した上で、






「逃げて、逃げ抜いて下さい!」






と、涙を流したまま山南さんの袖を掴んで伝えた。






「月香さんは…未来から来たのですか 、驚きましたが…私が生きていれば歴史は変わるかもしれない。だから…私は、自分の人生を月香さんが教えてくれたように真っ当します。」





大丈夫ですよ、悔いはありません。





「貴女のような方と出会えましたし、素晴らしい仲間にも出会えました。」






穏やかに微笑んで言った、山南さんは。






「もう泣かないで下さい、月香さんには笑顔が似合いますよ。」






頭を撫で、強く私を抱き締めると……





私が泣き止むまで、ずっと……背中を撫でてくれていた。






「ですが、もう少しだけ…皆と過ごしたいと思います。」






「わかりました、皆で年を越しましょ。例え、少しくらい歴史が変わっても大丈夫ですから…皆ともっとたくさん過ごしましょ?」






笑いながら、頷いてくれた山南さん。






ほんの少しだけ、ホッとした。





私の記憶が確かなら、彼が脱走するのは……





年を越した、もう少し先の事。
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