下弦の月
今日も私は二人分のお茶を煎れて山南さんの部屋を訪ねる。








「やはり、月香さんのお茶は美味しいですね。ホッとします。」






「ありがとうございます。」






「ところで、月香さんは土方くんを好いてるのではありませんか?」






「どうして…それを?」






顔は、みるみるうちに火照りだす。






「貴女を見ていれば、わかりますよ。いつも自然と土方くんを目で追っていますよ。」





「…山南さんには、隠せませんね。」






「私だけではありません、皆さん気付いています。」






はい?裏返った声が部屋に響いて、顔はさっきよりも火照る。






「本当に、月香さんは分かりやすいですね。」






渇いた笑いしか出ない私を、山南さんは微笑んで見ているから。





恥ずかしくて、下を向くと。






「月香さん、土方くんを頼みますよ。」






急に、真剣な声音でそう言った。






「原田さんにも言われました。土方さんは…心を鬼にしていると…」






「原田くんも、同じ事を。だから、土方くんには貴女のような素直で想ってくれる方が必要なのです。」






「山南さんは、土方さんが好きなんですね。」






「はい、好きです。だから、心配なのです、いつか……彼が本来持っている優しさを失って本当に鬼になってしまわないか…」






「…山南さん…」







これが、私に対する山南さんの最後の言葉に聞こえた。






だって、私は彼の名を最期を知っているから。






それでも、伝えてはいけないと…下唇を噛むけれど堪え切れずに涙が溢れた。
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