下弦の月
《土方 歳三》



息抜きがしたくなり、




月香の姿を探すが何処にも見当たらず、





何となく外にいる気がして、裏手にある桜の木の側で姿を見つけた。






小柄な月香が桜の木を見上げていたが、





その瞳に、光るものが見えている。






時折、月香は外でボーっと物思いに更けている時がある。





綺麗な涙を流している時もあるが、




いつもは見て見ぬふりをしていた。





涙の訳を俺が聞いてもいいのか?と躊躇いがあったからだ。






だけど……今日だけはほっとけなかった。





あまりに、その涙がいつも以上に綺麗過ぎて。








声を掛けると、




飛び付いきた月香を受け止めると。






鼻を啜り、涙を堪えているようだった。







どうしたんだ?と聞いても、




何でもない。と答える。





話すように促しても、何でもない。と言いながら。







「泣いてもいいですか?」






と、更に強く俺の胸に顔を埋めるから。





恐らく、はじめて見る月香の甘えた姿を見せられたら……





だめだ、なんて言えねぇよ。






腕の力を強めると、まるで餓鬼のように声を上げて泣く月香に、





聞こうとしていた、




時折…見せる涙の訳を聞けなくなっていた。








俺には話せねぇか?






お前は誰になら話せる?





兄のように慕っている原田か?





永倉か?





それとも聞き上手な斎藤か?





歳も近く、仲が良い総司か?





平助か?










月日が巡る度に、強くなる想いを伝える事を恐れて。





伝えられずにいる俺は、情けないのだろうか?
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