下弦の月
「おはよう。」





「おはよう…ございます、眠れましたか?」






「ああ。月香のおかげで、ちゃんと眠れた。」







「よかった…です…」






布団の中で、唇を重ねていた私達だったけれど。





部屋に近付く慌しい足音で、すぐに離されて。




その足音の主を、布団から出て、襖を開けて確認すると……




八重だった。








「こんな朝っぱらから…どうしたんだ?」





土方さんが、眉間に皺を寄せて言うと。






私に抱き付いて……一言。






「…斎藤さんに…ふられた…」





土方さんと私の視線は、自然と絡まって。





“部屋に入れてもいいですか?”






瞳で訴えると、理解してくれたらしく、頷いてくれた。






布団を畳ながら、事情を聞けば。







昨日、事件後に戻って来た斎藤さんに抱き付いたら拒絶されたらしい。






「俺は今、君を受け止められない。だから抱き付かれても困る…」





と、言われて。






それってさ……






また土方さんと視線が絡まると、




同じ事を思ったのか……ふっと同時に吹き出してしまった。






「ちょっと…どうして…笑うの?」





膨れっ面の八重の頭を土方さんが撫でて、






「八重……斎藤はな、お前を振ったわけじゃねぇよ。今はって事はな、いつかはって事だ。あいつなりに考えてんだ、八重の事をな。それに、あいつは真面目過ぎるから照れただけだ、八重に抱き付かれて。まだ、あいつに八重に対する特別な感情は芽生えてねぇと思うぜ。」






諭すように、そう伝えた土方さん。





八重が、泣き顔から膨れっ面になったのを笑顔にしたから…




さすがだ。




私なら、こんなに上手く言えなかったと思う。





斎藤さんを、よく知ってる土方さんだから言えた言葉。








「はい、頑張ります。斎藤さんに気持ちが伝わるように。」





「ああ、頑張れ。何かあったらまた、聞いてやるよ。」





「はい。ありがとうございます。」







ニコッと、笑顔を見せた八重は本当に可愛くて。





抱き締めたくなった私は、八重の隣に膝立ちをして抱き締めて。






「私は協力するよ。」






ありがとう。





八重が、そう答えてくれたから。
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