下弦の月
だが、やはり願いは叶わず……




井上さんが亡くなり、山崎さんが重症を負った。





タイムスリップしたこの時代で父のような存在だった井上さん。




訃報を聞いた時は、悲しくて悲しくて八重の胸で一晩中…泣いた。






この戦から、新政府軍は新型兵器を導入して……





旧幕府軍は為すすべもなく、敗戦を余儀なくされて。





軍艦で江戸に逃げる事になった。







八重も私も、土方さんの指示で…この軍艦に乗り京を離れる事になった。






この船中で、山崎さんの介護をしていた私に。







彼は一冊の綴りを渡して。







「これには…傷の手当ての仕方や薬や…全ての事が書いてあります。貴女はこれから、戦地で皆の傷を癒してあげて下さい。長く屯所に出入りしていて…皆に慕われている貴女にしか、頼めないのです…僕の代わりに……お願いします。それと、土方さんの事…支えて下さい。貴女なら…出来ますから…」








彼は、私が屯所から帰る時はいつも送ってくれた。




背後からそっと。





だから、彼が私に託した事をやりたいと、




やるしかない、と。






「わかりました、やってみます。土方さんの事は…心配なさらないで、私が側に居ますから…」





そう、答えた翌日に彼は命を落とした。
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