下弦の月
「行く宛もないみたいなので、私と暮らす事になったのよ。」



月香を見て、八重が俺にそう伝えた。



やっぱり見つめられた瞳には弱く、また胸に針が刺さる。



「そうか、月香と言ったな?髪結いも毎日…忙しいわけじゃないだろ?たまにでいい。手伝いに来てくれないか?」



もっと深く、月香と関わりたい。


知りたい。



そう思い…聞いたのだが…月香は、でも…と八重を見た。



俺の髪に櫛を透す手を止めずに、



「いいじゃない?男所帯だから、女手が欲しいって言ってたわよね。私は構わないわ。」



八重は俺の足りなかった言葉を付け加えて、月香を横目で見ながら、微笑んだ。



「…八重が構わないなら、何の役にも立てませんが…引き受けさせて下さい。」



真っ直ぐに俺を見て、そう答えをくれた。




「ありがとう、よろしく頼む。」




はい。と微笑んだ笑顔は、月のように綺麗な顔とは反対に……陽の光りのように明るく、眩しく感じた。



俺はこの笑顔が好きだ。


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