下弦の月
「これは君の結い紐?」






「いいえ…もともとは歳三さんのです。髪を切られる前に結っていた紐で、切った時に私にくれたんです。ずっと、私はその紐で髪を束ねていました。」







「それなら、大切なものだろう。持って帰るべきだ。」





私の手を取り、受け取ってくれた紐をまた握らせた。






「これは…持って帰れません。ただこれだけで、歴史が変わってしまってる気がして怖いんです。」






「なるほど…わかった、僕が責任を持って預かるよ。」






手を差し出した大鳥さんに、また結い紐を渡した。






「宜しくお願いします。無事に帰ったら…奥さんと子供さんを離れていた分、心配かけた分、幸せにしてあげて下さい。」






「ああ…そのつもりだよ。土方くんが生まれ変わって、また逢えたら宜しく伝えて。」






「はい、わかりました。本当にありがとうございました。」






深々とまた頭を下げて、背中を向けた。






そして、島田さんにも全てを伝えて…挨拶をして。






思い出のたくさん詰まった歳三さんの部屋で、




この時代に来た時の着物に、着替えて。




歳三さんがあつらえてくれた服を綺麗に畳んで。





髪に簪を挿した。
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