どうも、薬作りしか取り柄のない幼女です

「あ、頭を上げてください! ……私、本当に当時のことは記憶が曖昧なのです。薬を作ることにしか、興味がなくて……」

 そのせいで誰かが不幸になり、誰かが救われていたとしても……それはすべてスティリア王女の功績。
 私は作ることしかしていない。
 正直、失敗作まで使われていたと思うとゾッとしている。
 誰かが亡くなってても——不思議ではないのだ。
 でも薬の開発者として、作った者として、知らぬ存ぜぬではいられないのでは?
 だって、失敗作は……本当に人にとって毒だった場合もある。

「……私の作った薬で、人が治ったり、死んでるかもしれないなんて考えたこともないくらい……」
「ミーア……」

 本当はちゃんと向き合うべきところだった。
 私は無責任だったのだ。
 闇聖獣様が私をこの世界に戻してくださったのは、きっとお許しくださったからではない。
 自分の責任と向き合うためだったのだ。
 ……さっき暴走したばかりで説得力がない。反省はこれからします。
 ダウおばさんが、あたたかな羽毛で後ろから抱き締めてくれる。
 それについ、甘えて埋もれた。

「だとしても、あなたが妹の命を救ってくれたことに変わりはない。だからありがとう」
「ルシアスさん……」
「なにか望みがあったら言ってほしい。聖森国王太子ルシアス・フェリーデの名の下に、叶えられるものはなんでも叶えよう」
「…………聖森国の」
「うん」

 ……王太子?

「ルシアスさんが?」
「そうだよ」
「あれ? え、えっと、ス、スティリア王女が……嫁いだ先……」

 記憶を必死に呼び起こす。
 記憶違いだろうか?
 本当に薬に関すること以外の記憶が曖昧で困る。

『わたくし、聖森国(せいしんこく)の王太子、ルシアス殿下のもとへ輿入れが決まったの!』

 ……満面の笑みで、幸せそうに笑うスティリア王女の発言。
 うん、記憶違いかな?

「そうだよ。妹、エルメスの肺炎を治す特効薬の代わりに、スティリア王女は自身を私——いや、俺の妻にしろと言ってきたんだ」
「えーーーーっ!?」

 なにそれ、死にそうな妹さんを助ける薬を求めたら、一緒にスティリア王女が押し売りの如くついてきたってこと?
 要らなっ! ……じゃなくてもうそれは脅しでは?

「こちらとしても“薬師の聖女”が聖森国に来るのは歓迎だったから、人格の件は目を瞑ることにしたんだ。なにしろ我が国の聖獣は二体。どちらも未だに目を覚さない」
「!」
「そう、“薬師の聖女”殿に是非我が国の聖獣のために聖獣治療薬を作っていただこうと思っていた。……だが、エルメスの肺炎を癒した薬も、聖獣治療薬も、彼女——スティリア王女が作っていたようには……どうにも思えなくてね」

 元々ルシアスさんは聖獣治療薬の噂を聞きつけ、部下の獣人を何度も冒険者に扮して崖の国に潜入させていたらしい。
 聖獣の回復は国の悲願。
 それは崖の国も聖森国も同じだから。
 その任務を、ルシアスさんはとある騎士に任せていた。
 とても優秀で、かつてルシアスさんの妹、エルメス姫がならず者に誘拐された時に無傷で救い出した英雄。

 タルトの父親——騎士カルロ。

 彼が崖の国で見たものは、スティリア王女が生まれたばかりの弟を、崖の国の聖獣祭で火聖獣様の祭壇に捧げている姿。
 聖獣祭は聖獣様に信仰を捧げて快方を願う祭り。
 王族は聖獣様に願いを込めたものを捧げる。
 だが、スティリア王女は昨今奇妙なものばかりを捧げていた。
 ついに弟まで捧げたとなり、国民の中では動揺もあったらしい。
 けれど、彼女は当時すでに“薬師の聖女”という確固たる信頼と人気を得ていた。
 国民は誰も彼女の行いを、咎めようとはならなかったらしいのだ。
 捧げられた弟に対して火聖獣様は加護を与えた。
 それが、国民たちからの信頼をより勝ち得るものとなったらしい。

「…………。ん? 弟?」

 しかしながら、私はこれでも一応元崖の国の民である。
 さすがに王族に王子がいれば、耳に入るはずだ。
 けれど、私はスティリア王女の下に弟がいるなんて聞いたことない。
 いくら私が薬作り以外に興味がなく、記憶が曖昧とはいえ王家の家系くらいは覚えなければならないからだ。
 だって城お抱えの薬師なんだもの。
 城の主人の親族くらい、把握しておかなければ。

「そうだ。崖の国の王家ゲイプ家には王、妃、あの王女の他に弟妹が多くいた。余に捧げられた王子はそのひとり」
「え? で、でも……」

 火聖獣様がそうおっしゃるのならそうなのかもしれないが、私はそこまで記憶が抜け落ちているのだろうか?
 私、自分の記憶信じない方がいい?
 そこまで考えていたら、信じられないことを告げられた。

「スティリアという王女は、弟妹を母親から取り上げて殺している。自分が両親に愛されないのは、弟妹がいるからだと思っているからだ。余に捧げられた弟も、余が食い殺すだろうと思っての行動。だから余は捧げられた赤子に加護を与えた。……あの王女を次代の玉座に据えるのは好かんと思ったからな」
「……っ!?」

 口を覆った。私も大概頭がおかしいと思っていたけれど、スティリア王女は私以上に頭がおかしい。
 自分の弟妹を——殺している?
 嘘、そんなの、そんなばかなこと……。
 私は聖殿で暮らしている頃、下の子たちしか話し相手がいなくて……それでもあの子たちが笑っているところを見ると幸せで、楽しくて。
 あの子たちのような、下の子たちにお腹いっぱい食べてほしくて、自分の給料の九割を聖殿に寄付するように頼んでいたのよ?
 血の繋がりはなくても、私の大事な弟妹。
 スティリア王女は、血の繋がった弟妹を殺していた?
 そんな……そんな……!
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