下弦の月*side story*
店の前まで来ると、




看板の灯りは消されていて……




戸惑いながら扉を開けるとカウンターの椅子に座って、




背中をカウンターのテーブルに預けながら、




ビールグラス片手に煙草を吸っている淳平の姿があった。








「ちゃんと、話せたか?」





コクりと頷くと、





「ここに戻って来たってことは、俺を選んでくれたって思っていいんだな?」






優しい瞳をダウンライトに反射させて、




私に答えを委ねた。





「うん、淳平に…着いて行きたい…」






口角を上げて、煙草を灰皿で揉み消して。




グラスをテーブルに置いて、おいで、と腕を伸ばした。



迷うことなく、飛び込んだ私をしっかりと包み込んでくれた。







この温もりも、煙草の香りも爽やかな香水の香りも。




鼻先がぶつかる距離で見る、優しい瞳も。





全てが、ホッとさせてくれる。







「いきなり、店に来なくなって…自分じゃ気付いてなかったかもしれねぇが、俺を避けるようになって何となく勘付いてた。ほぼ…毎日のように顔を合わせる奴が相手で知らないふりをしてる事が限界で、直哉から聞き出そうとわざと…アイツがキレるような事をしたんだ。彩芽が現れたのは予想外だったけどな…」






そう、微笑んで額にキスを落とされた。






「まあ…手間は省けた。もう、直哉との事はいい。お前がこうして今は、俺の腕の中に居るんだ。」






だがな……





「蝶のようにヒラヒラと、あっちやこっちに飛ばれるのはもう…御免だ。我慢もしたくねぇ。」






淳平さんが、大きく吐いた息が私の前髪を揺らした。
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