下弦の月*side story*
淳平さんの店のバイトの直哉くんは斎藤さんの生まれ変わり。




告白された時は、嬉しくて。




即答で、付き合う事にした。





大学生の年下で、バイトを探してるからって淳平さんのバーを紹介したのも私。





すごく好きだった。




斎藤さんとは、正反対な性格だったけど。






でも、師走に入ってすぐ……




別れを告げられて。






ひとり、やけ酒を飲んでふらふらと歩きながら辿り着いた先はーーー。






淳平さんのバーだった。






明け方近くの店は、すでに灯りが落とされていて。




入口横の壁に身を預けて、座り込んでいた。




もう、動きたくなかったし…ここまでどうやって辿り着いたのかも覚えてなくて。




疲れ果てたからかな。






膝を抱えて、身体を丸めるようにしてる私の前に影が出来て。





その影を見なくても、





「何やってんだ?こんな所で…」





そう言った、低いハスキーな声と頭に置かれた手の温もりで…



すぐにわかった。






「…別れた…直哉くんと…」





「とりあえず…風邪引くぞ。中に入れ。」





拒む私を、無理矢理立たせて…引きずられるように中へ入れられて。





ふかふかのソファーに座らされていた。





テーブルにそっと置かれたのは、



温かい私の大好きなミルクたっぷりの紅茶で。





口にすると、冷えた身体に染み込んで涙が溢れて。




カップを持つ手に落ちていた。






「大丈夫か?」





優しい声音で、ブランケットを肩に掛けてくれるから。




涙腺はさらに、決壊して。




寒さじゃない、涙のせいか何なのかわからないけど身体は震えて。






手にしていたカップを、私の手から取ってテーブルに置くコトンと小さな音が鳴った。






そっとブランケットごと、横から包み込まれた。






どうして……こんなに、




この人は、優しいんだろう。






「落ち着くまで、こうしててやるから。」






何度も小さく頷いて、嗚咽交じりに泣いた。
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