空を舞う金魚

「……じゃあ、逆に綾城さんは、僕の何が良くて恋人になってくれたの?」

そんなの決まってる。やさしくて、包容力のある大人なところだ。そう答えたら、砂本さんは苦笑した。

「それじゃあ駄目だって言ったでしょ? ちゃんと『男』として見て、って言ったじゃない」

そう言った砂本が、ぐっと千秋の腕を引いた。そして背を抱くと、閉館のアナウンスと共に顔を寄せてきた。

砂本の目が獣のように鋭くなっている。

千秋はハッとして腕を振りほどこうとして……、でもそれはしちゃいけないと思って、ぎゅっと目を瞑った。暗くなった瞼の裏で近くに感じる砂本の気配に息を殺していると、予想したところに唇は落ちず、額にちゅっと音をさせて、それは落ちてきた。
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