空を舞う金魚
「綾城さん、何時も人が嫌がるような仕事を淡々とこなしてるでしょ。他の女の子だってお茶汲みやごみ捨てってやりたがらないもんね。よくやるなって思ってたんだよ」

そんなことで?

「で、でも私、…昔から地味で目立たなかったので……、その……」

そう言って脳裏に鮮やかによみがえる、春の青空を切り取った教室の窓。うららかな日差しの中で、千秋のことを好きだと言った、渡瀬くん。

本当は、あの時返事を出来なかったことを後悔していた。もし千秋があの時「はい」と返事をしていたら、今みたいな地味な生活と違っていただろうか、と。

それと同じ分岐点が、今、来ている……?

どきんどきんと胸が鳴る。それはときめきではなくて、焦りから来るものだった。

「あの……、わたし、……あの……」

砂本に応える声が急に震えた。此処で人生が決まってしまうのではないか。そういう、大きな決断だった。
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