空を舞う金魚
手が、震える。ぎゅっとカウンターの上で握った手に、砂本がやさしく触れてくれた。

「焦らないで」

穏やかなひと言だった。砂本さんの手はそのひと言の際に千秋の手にそっと触れて、そして離れていった。

「返事を急かしたいわけじゃないんだ。ただ、僕が君を好きになるのに時間が掛かったように、君にも僕のことを分かってもらうのに時間が掛かると思うんだ。だから、僕のことを分かった、と思った時に返事をくれれば良いよ」

店内の談笑に紛れてしまわない程度の小さな声で、砂本さんは言った。水槽の底で砂利の中に紛れて潜んでいた魚に、その振動で伝えてくるような、低音のささやき。

「聞きたいことがあれば、質問は受け付けるよ。これ、ID」

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