偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
週が明けて、今日は出勤日。

私より出勤時間の早い彼はすでに家を出ている。

今朝も行ってらっしゃいと見送る私を抱きしめて、優しいキスをくれた。

甘い雰囲気にまだ完全になれなくて、緩みっぱなしの頬を戻すのが困難だ。

それでも気を引き締めて、私も自身の身支度を手早く整える。



出勤後、いつものように開店準備をして、店舗前を掃除する。

同じように開店準備をしている近隣のお店の方々と軽く言葉を交わす。

 
「……幸せオーラ駄々洩れね。表情から察するにものすごくいいことがあったのね?」


鋭い渚の指摘に小さく首を縦に振る。


「事の次第は昼休みにきっちり話してもらうわよ?」


「う、うん」


熱くなる頬を隠すようにうつむいて返答した。

それから通常通り業務をこなす。

患者さんが次々に来店され、忙しい時間帯が過ぎていく。

気がつけば昼休みになっていた。

少しの時間差はあるものの、渚も休憩に入った。

いつもなら、持参している弁当を休憩室を兼ねたロッカールームで食べるのだが、今日は話もしたいので近くの公園に向かった。

店舗から徒歩十分もかからない公園には親子連れや会社員の姿があった。

この辺りは住宅地ではあるが商店街や会社も多い。

小規模なマンションが建設できそうなくらいの敷地があるこの公園は、近隣住民の憩いの場になっている。

幾つかのベンチにはすでに先客がいたが、幸いにも出入り口に近い木製の背もたれがついたベンチは空席だった。
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