偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「斎田様、本当にお綺麗です」


ほうっとひと息ついて中西さんが私の全身をくまなくチェックする。


「ありがとうございます、中西さんのおかげです」


「いいえ、とんでもないですわ。さあ、栗本副社長の元へ参りましょう。今か今かと首を長くされておいでですから」


頬を緩める中西さんに促され試着室をでると、まるで王子様のような櫂人さんが佇んでいた。

上品な藍色のスーツに身を包み、普段よりも少しセットされた髪が美麗な面立ちに悔しいくらいに似合っている。

素敵すぎる姿に、鼓動が信じられない速さで動きだし、声が震える。


「櫂人さん、すごく素敵」


やっとの思いで感想を口にすると、櫂人さんはなぜか眉間に皺をよせて厳しい表情を浮かべている。


もしかして私の格好がおかしいのだろうか? 


似合っていない?


「あの……」


「藍、困る」


「え?」


「すごく綺麗だ。悪い、見惚れて言葉が出てこなかった」


衝撃的な褒め言葉にカッと全身が熱くなる。


「あ、ありがとう。あの、困るって……」


「魅力的な婚約者を人前に出したくない」


そう言って、彼はそっと私の腰に腕をまわす。

正面から顔を覗き込まれるような体勢に、上がりっぱなしの体温が悲鳴を上げる。

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