偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「お前の一挙手一投足に周囲は注目している。怪しまれるような行動はとるな」


身体を離す瞬間、耳に響いた忠告に胸が圧迫されたように苦しくなる。

彼と想いが通じたと思っていた。

体温を分け合い、心までも重ねあえたと思っていた。

でも今となっては、すべて私の独りよがりだった可能性が高い。

纏まらない考えに翻弄されている間に、婚約者が壇上から降りて来た。

周囲の人々に笑顔で応え、私の元へ歩いてくる。


白坂さんの前を通ったとき、櫂人さんの足が一瞬止まった。

白坂さんと言葉を交わす際に厳しい表情を浮かべた彼の姿に、得体のしれない不安が広がる。

こちらに背を向けているので白坂さんの表情はわからない。

時間に換算すれば二分、三分ほどの出来事だ。

気になって仕方ない私はどれだけ狭量で余裕がないのだろう。

彼とふたりで生きていくと決意したはずなのに。

櫂人さんと白坂さんは今後も仕事関係で顔を合わせる機会が多々あるはずだ。

そう考えた際、心がひりつくのを抑えられなかった。


こんな感情のままで婚姻届なんて出せそうにない。
< 153 / 208 >

この作品をシェア

pagetop