偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
『おめでとうございます』


『お似合いのおふたりね』


口々に聞こえる祝福の声にほんの少し安堵すると同時に、居心地の悪さを感じてしまう。

壇上にいた時間はほんの数分程度なのに、とてつもなく長い時間に思えた。

皆から注目され、目立つ場所で堂々と振る舞える彼を心から尊敬する。


壇上から降りる私の目の端に穏やかな表情を浮かべる白坂さんの姿が映る。

そのすぐ近くには蘭子さんと貴臣くんの姿があった。

今日、貴臣くんは自身の勤務先の代表としてではなく、是枝家の代表として参加している。

蘭子さんはいつもと変わらない様子に見えるが、貴臣くんはどこか不満そうに見える。

おめでたい席に相応しくない表情だが、貴臣くんらしい率直さにホッとする。

張り詰めていた気持ちがほんの少し緩んだ。


「藍、足元に気を付けて」


まだ壇上に残らなければならない婚約者が背後から小さく囁く。


「……この階段を降りた後、アイツのところに行くな」


密やかな小声での命令が耳を掠める。

思わず振り返った途端、高いヒールに足元が一瞬ぐらつく。

そんな私を胸元で抱え込んで支えた彼に周囲から再び黄色い歓声があがる。


「本当に婚約者を大事にされているのね」


「素敵だわ」


私の失態さえもこの人の好感度を押し上げている。
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