偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「……それにしても変な話よね」


「なにが?」


「白坂さんと藍が似ているなんて今や周知の事実なのに、わざわざ記事にする意味がある?」


「え?」


「もしかしたらふたりを不仲にして婚約破棄を狙っているとか……栗本副社長や藍の世間への心象を悪くするのが目的なのかも。新商品発表前の今なら効果は絶大だもの。商品はおろか会社へのイメージダウンは避けられない」


「まさか、そんな」


「もちろん推測よ。でも藍に余計な心労をかけたくなくて、栗本副社長はなにも言わなかった可能性だってあるわ。なんにせよ、一度本音で話し合うべきよ。ほら、もうこんな時間よ。仕事しなくちゃ」


親友は話を明るく切り上げて、私の肩を叩く。

彼女の心遣いがなにより今は有難い。

怖がって逃げていても仕方ない。

正解はわかっているのに、うまく行動できない。

大人になるにつれてどうしてこんなにも臆病になるのだろう。

幼い頃のほうがもっと素直に、思うままに行動していた気がする。

それは年齢を重ねて大事なものを失うつらさを知ったからなのか、傷つく現実を回避しようとする無意識の自己防衛なのだろうか。
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