偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
いい年をした大人がする真似ではないとわかっている。

けれど今の俺には呆れと嫌味とともにでも、助言をくれる白坂さんはとても有難い存在だ。

他社の人間に、弱みや情けない姿を見せたくないといった小さなプライドは、どこかに吹き飛んでいた。


『何度も申し上げていますが、伝わっていればこじれません。栗本副社長の本命は私だと勘違いして、身を引くべきは自分だと思われたのでは?』


彼女の指摘に一瞬息を呑んだ。

心がどんどん凍りついていく。

スマートフォンを握る指がみっともなく僅かに震えそうになる。


『私は白坂さんに似ているんでしょう? 白坂さんが好きだったからあえて似ている私を縁談相手に選んだんじゃないの?』


『くだらなくなんてない。そもそもあの噂が真実か嘘かなんて私にはわからない』


脳裏に藍が放った言葉が蘇る。

あのときの藍は思いつめた表情をしていた。

考えてみればここ最近はずっと沈んだ面持ちだった。


……俺はなにひとつわかっていなかった。


あんなに必死に話があると言っていたのに。


あの頃、彼女がついた嘘を知った。

そのショックで平常心を失い、裏切られた気持ちでいっぱいになっていた。
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