偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「大丈夫か? なんなら俺も付き添うぞ」


「ありがとう。でもこれは私の問題だし、気持ちだけもらっておく。本当に貴臣くんは親切だよね。モテる理由がわかるよ」


「俺はモテないし、誰にでも優しいわけじゃないよ。自分にとって特別な人限定」


「そうなの?」


「もちろん」


運転しながら、貴臣くんがうなずく。


「藍、悪いけど姉貴にもう少しで着くって連絡しておいてくれないか?」


「うん、わかった」


ポケットからスマートフォンを取り出すと、画面に何件もの着信履歴が表示されていた。

驚いて画面をタップすると、櫂人さんの名前がずらりと並んでいた。


……なんで連絡してくるの? 


目の前であれだけ拒絶したのに。

あの人が私を許せるはずがない。

家を飛び出す前に言い争ったときだって、ずいぶん怒っていたのに。


もしかして早々に最後通牒を突きつけるつもり?


ズキンと心に大きな痛みがはしる。

距離を置きたいと告げたくせに今さらなぜ傷つくのだろう。

この胸の痛みも時間が経てばきっと忘れるはず。

櫂人さんと白坂さんが並び立つ姿を見てもなにも感じなくなる日がいつかやってくる。

だからその日まで私の恋心は心の奥底に閉じ込めよう。



今になって、あなたが好きだなんて口にできるわけがない。
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