偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
「それより藍、敬語」


「す、すみません」


「……お仕置き決定だな」


「気をつけますからやめてください」


そんなの一朝一夕でできるわけがないのに横暴すぎる。


「じゃあ三回だけチャンスをやる」


「なんですか、それ」


「三回までは敬語を使ってもいい。それ以降はお仕置きだ」


ニッと口角を上げる副社長を思わず睨む。


「無理です!」


「嫌なら敬語をやめればいい」


「でも特に不都合はないかと……」


丁寧な言葉で伴侶と会話している人なんて、大勢いる。


「敬語だとよそよそしい感じがするだろ。家族になるんだから慣れろ」


家族、って思ってくれるの?


思いがけない返答に胸の奥が熱くなる。

私との会話では端的な物言いが多い彼だが、そこに嘘はない。

物腰も柔らかく、下手に波風を立てない、対外的な彼の姿とはずいぶんかけ離れている。


私には取り繕う必要がないからだろうか?


答えの出ない疑問ばかりが頭の中を占領していく。

この人の一挙手一投足に翻弄されてばかりだ。


「今日はいつもと雰囲気が違うな」


普段はおろしている髪を今日は久しぶりに緩く編んだ。

もしや似合っていないのだろうか。

スッと彼が私の編んだ髪に手を伸ばす。

長い指が軽く私のうなじに触れた。


「ここ、丸見えだな」


「え?」


「ほかの男に見せたくない」


さらりと言われて、体温が一気に上昇する。


なにを言っているの?
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