偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
部屋の鍵を開けて荷物を受け取ろうと手を伸ばす。


「ありがとうございます。あの、やっぱりこの洋服のお支払ですけど……」


恐る恐る考えていた事柄を口にする。


「藍、荷物を入れたいから玄関に入ってもいいか?」


私の言葉なんて聞こえなかったように、櫂人さんが尋ねる。


「あ、はい、どうぞ」


慌てて扉を大きく開け、彼を中に促す。

櫂人さんは玄関わきに荷物をゆっくり下ろす。

そして振り返った途端、胸の中に抱き込まれた。

バタン、と背中で大きな音がして玄関ドアが閉まった。


「本当に無用心だな。簡単に男を家に入れるな」


「無用心って……櫂人さんは荷物を運んでくれていたじゃないですか」


知り合いでもない男性を家の中に上げたりなんかしない。

そのくらいの危機意識は持ち合わせている。


「なんで同じマンションに学生時代の男がいるんだ?」


「男って……偶然一緒だったんです。再会してお互いに驚いたんですから」


「本当に?」


ギュッと抱きしめる腕に力が込められる。

胸に抱え込まれている私には彼の表情はうかがえない。

でも耳元近くで囁かれる声には明らかに不機嫌さが滲んでいる。


「そんな話は初耳だ。しかもなんで飲み会に誘われるんだ?」


「初耳もなにも不自然な話ではないし、ただの社交辞令ですよ」


他愛ない日常会話のようなものだし、飲み会に参加するつもりはない。

私の返答にはあ、と大きなため息が頭上から落ちてきた。

私は腕の中から必死に身をよじって、彼の顔を見上げる。

< 78 / 208 >

この作品をシェア

pagetop