偽装結婚のはずが、天敵御曹司の身ごもり妻になりました
心が乱された引っ越し日の翌日。

仕事が休みの私は朝から再び片づけに没頭していた。

今日は平日なので彼は出勤している。

櫂人さんの休みは一応土日祝日と決まっているらしい。

それでも休日には、会食や会議やパーティー、講演会などがあり、きちんと休めるのは稀だと聞いた。

なかには伴侶とともに参加しなければいけないものもあるようだが、今は独身だからとやり過ごしているそうだ。

私の日常とはまったくかけ離れた世界だ。


「……本当、なにもかもが豪華すぎるよね」


誰に言うでもなく声が漏れた。

都心の最寄駅から五分という好立地に建てられた、豪奢な高層マンション最上階のワンフロアすべてが櫂人さんの自宅だ。

広々としたリビングからは東京の街並みが一望でき、夜景はうっとりするくらいに美しい。

初めてここに足を踏み入れた際は、広すぎる玄関と多すぎる部屋数に驚きを隠せなかった。

しかも部屋全体に掃除が行き届いていて、家具や調度品もセンスの良いものばかりだ。

結婚のためにこの部屋を購入したと告げられて、開いた口がふさがらなかった。

これほど豪華な部屋を簡単に購入するこの人が心底信じられない。

長く続かない関係なのに、こんな大きな買い物をするなんてお金持ちの考えはよくわからない。
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