丸い課長と四角い私
顔を上げてずり落ちていた眼鏡の位置をなおし、云われたやり直しを始めた。

 
蔵田課長と私は、犬猿の仲。水と油。

……まあ、そんな感じ。

奴は口を開くと、私を小莫迦にした発言しかしてこない。
私もすぐに、売り言葉に買い言葉、で返してしまうし。

だいたい、ふたりとも眼鏡だが、奴が細い銀縁ハーフリムの、オーバルタイプに対し、私はプラスチックの、赤スクエア。
そこからあっていない。

どうしてそこまで反りがあわないのかわからないが、……そんな私たちふたりには秘密がある。



その月の最終金曜日。
仕事が終わった私は、近くの大型書店をうろうろしていた。
別に買いた本がある、とかでもなく。
なにか探している、とかでもなく。

ブブブッと鞄の中で震えた携帯を慌てて取り出す。

【どこ?】

【コミックスコーナーです。
でも、そっち行きますよ】

入ってきていたメッセージに手早く打ち返す。
すぐに既読になり、返信が表示された。

【じゃあ、洋書コーナー】

【了解です】
 
云われた場所に行くと、私を見つけたその人――蔵田課長はくすりと笑った。

「また少女まんが?」

< 2 / 35 >

この作品をシェア

pagetop