丸い課長と四角い私
ナルに気を取られて話を聞き流していたら、突然下部部長に振られて焦った。

「まあ、それはそれでいいんじゃないでしょうか?」

適当に誤魔化して返事をした……けれど。

「じゃあ、君、近いうちに大阪支社に転勤な。
いやー、よかった。
向こうの戸次部長から、しつこく頼まれててさー。
ほんとよかった」

「……はい?」

……え。
転勤って、なに?

「聞いてなかったのか?
いや、聞いてなかったにしろ、承知したものはもう取り消せないからな」

「……はい」

下部部長の、迫ってきた大きな顔に。
……ただ頷くことしかできなかった。



「嘘……だろ……」

抜け出してきたトイレ。
鏡の中には呆然としている男の顔。

……大阪に、転勤?
そりゃ、福岡から大阪となれば栄転だし、普通なら嬉しいことだ。
しかも、向こうの部長から請われてとなると。
けれど、ナルは?
ナルのことはどうしたらいい?

夢なら醒めてほしい、そう願って顔を洗ってみる。
汚れた眼鏡のせいで、おかしなものが見えているんじゃないかと眼鏡も洗ってみたものの、見える景色は変わらない。

……だいたい、酒の席でそんな大事な話するかよ。
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