マリオネット★クライシス

えんじ色のエプロンドレス……メイド服っぽいものを着てる。
50歳くらい、だろうか。

「お体の具合はいかがですか? もし調子がお悪いようでしたら、すぐにドクターを呼びますが」

「あ、の……?」
言葉に詰まる様子でこっちの言いたいことを察してくれたのか、その人は「あらあら、わたくしとしたことが、申し遅れました」と破顔した。

「シェルリーズホテルでメイドをしております、門脇麻里(かどわきまり)と申します。マリーとお呼びくださいませ。今夜は栞様のお世話を仰せつかっておりますので、どんなことでもなんなりとおっしゃってくださいませね」

「はぁ……えっとあの、わたし、まだシェルリーズホテルにいるんですか?」

これがホテルの中?
目を剥くわたしを眺め、マリーさんはニコニコと目尻に皺を寄せる。

「一般の客室とは少々趣が異なりますから、戸惑われたんですね。こちらはプレジデンシャルスイートでございますよ」

「ぷ、プレ……?」

「プレジデンシャルスイートです。デラックススイート、ロイヤルスイートのさらに上、最上階にございまして、当ホテル最高ランクのお部屋でございます」

「はぁ……」
よくわからないまま頷き――そこでやっと気づいた。

――お寛ぎの所失礼いたします。ルームサービスをお持ちいたしました。

間違いない、馬淵さんと一緒の時に聞いた、あの声だ!
じゃあ彼女は、ジェイと一緒にわたしを助けてくれて……

「ご安心ください、栞様が気を失っていらしたのはほんの1時間程度ですから。お体の調子がよろしいようならお食事をお持ちいたしましょうか? こんな真夜中まで何も召し上がらなかったら、さぞお腹がすいて――」


瞬間、血に染まったシャツが脳裏に閃き、ぞくっと恐怖が過った。

< 299 / 386 >

この作品をシェア

pagetop