マリオネット★クライシス
ざわめきを縫って、幼い声を耳が拾う。
視線をそちらへ向けると小学生くらいだろうか、子どもを連れた家族が仲良くメニューを囲んでオーダーを相談中のようだ。
<……ああいう家族に憧れてた、ずっと>
おはようとかおやすみとか、ただいまとかお帰りなさいとか。
家族らしい日常の挨拶すら、最後にしたのがいつだったか思い出せない。
それくらい、接点の少ない家族だった。
<うちは、父さんも母さんも自分のことに夢中で……特に父さんは、どうやったらまたシンガポールに戻れるかって、そればっかりでさ>
愛された記憶はない。
父にとって重要だったのは、ジェイが跡取りに相応しい、周囲に自慢できるような成績を収めること。それだけだった。
鬱々とした口ぶりに同調するように、ライアンは頷く。
<君が小学校にあがるくらいの頃だったね。ミスター偉平がリーズホテルズワールドから日本支社のCEOへ降格になったのは。もちろん彼自身の失策のせいだけど……随分総帥のことを恨んでたっけ>
そのせいかもしれない。
ジェイの類まれな高いIQが明らかになると、李偉平は息子へ、自分の果たせなかった夢――次期総帥就任への期待をかけ始める。
<ルドルフの話だと、最近は父さん仕事にも身が入ってないみたいでさ。ホテル経営は人に任せて、自分は美術品の収集に没頭してるって>