子作り政略婚のはずが、冷徹御曹司は蕩ける愛欲を注ぎ込む
番外編:石衣


 やすな、と切羽詰まった声が荒い呼吸の合間に聞こえる。

「普段からそうやって、呼び捨てにすればいいのに」

 シーツをぎゅっと掴む琴葉に言い、嬌声が外へこぼれないよう唇を塞いだ。

 くぐもった吐息と彼女の反応を強く感じ、眩暈がするような酩酊感に襲われる。

 口内で逃げようとする舌を追い、絡めて軽く吸い上げると、また琴葉の身体が跳ねた。

 余裕のないことを示すように固くシーツを掴む手をほどき、俺にすがれと手のひらを重ね合わせる。

「や、す……待って……」

「今更、なにをどう待てばいいんだ?」

 きっと彼女は、俺を余裕のある男だと思っているのだろう。

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