私だけを愛してくれますか?
何っ!?
つまり、こっちをキープして、別のイベントに申し込んでいたということ?
本命のイベントに参加が決まったから、こっちはキャンセル?
「どうします?開催まで二ヶ月切ったのに…」
瑠花ちゃんが泣きそうに聞いてきた。
『ことぶき』のブースは目立つところに決まっていたので、空きスペースにすることはできない。しかも、ブースの設営や品物の発注を考えると、他店にお願いするのもギリギリだ。
「吉木さん、ほんまに申し訳ない。もう一度、『ことぶき』に頼んでみるから」
袴田さんは青い顔をさらに青くしながら、もごもごと言った。
袴田さんに目をやりながら、すっくと立ち上がる。
青い炎がメラメラと立ち上るのを感じた。
「いえ、もうけっこうです。今から、別のお店を選出しますので、とりあえず、事の経緯を副社長に報告してください。お店のリストアップができ次第、私も行きますので」
「わ、わかった」
私の圧に押されたのか、袴田さんは転がるように出ていった。
「浴衣を出そうと企画した時に、依頼予定のお店をリストアップしてたよね。まだ残ってる?」
隣に座っていた小森君に確認する。
「あります。すぐに用意します」
小森君は私の意図を読み取って、すぐにパソコンに向かうとデータを確認し始めた。
私がものすごく怒っていることがわかっているので、アレコレ聞かない。この辺は、一緒にチームを引っ張ってきた阿吽の呼吸がある。
若手の二人には私の考えをちゃんと説明して、落ち着かせる。
「当初企画していた通り、浴衣を出店してくれるお店を探します。大丈夫。私がなんとかするから」
二人の顔を交互に見ながら、大丈夫と頷く。こういう時は、ハッタリでも自信たっぷりに見せることが大事だ。
心の中は怒りと不安でいっぱいだけれど。
「瑠花ちゃんと京極君は、『ことぶき』の名前を消した資料を新しく十部作ってくれる?二人で手分けしてね」
「はい!」「わかりました!」
みんなすぐに言われた通り動いてくれる。体を動かしている方が、不安は消えるのでちょうどいい。
「絶対に成功させるから」独り言のように呟く。
こんなしょうもない理由で、瑠香ちゃんの初めてのイベントにけちをつけるものか。
「「「はい!」」」
声を揃えて返事が返ってきた。