私だけを愛してくれますか?

打ち合わせをしていると、隣の班のチーフの袴田さんが青い顔をしてやってきた。

「吉木さん!えらいことになってしもた。『夏・京都』に出店する予定の『ことぶき呉服店』のボンが出店を辞めたいって言い出した」

「えっ!!」


ことぶき呉服店は、隣の班が企画したイベントの衣装提供をしてくれたお店だ。

貸衣装がメインの店なのだが、そこのボン(坊ちゃん)が最近着物をアレンジした洋服を作り始め、それを売り出す場所として『夏・京都』に出店させてくれと言ってきた。

出店に立候補してくれるのはいいが、袴田さんを通すのが困る。
いかにもコネを使ってますと言っているようなものだ。

最初、私は断った。

そういうしがらみでお店を決めると、後々トラブルが起きやすいからだ。
実際にボンが作った洋服も見てみたが、かなり奇抜なもので、普段使いというよりはパーティードレスや舞台で着る衣装に近い。夏に関係する商品でもないし、明らかにイベントの主旨には合わなかった。

それなのに、ことぶき呉服店は、袴田さんを通してゴリ押しをしてきた。

『お世話になった恩がある』と袴田さんや催事部の吉田部長にも説得され、しぶしぶ引き受けたのだ。

本当は夏のイベントらしく、浴衣を売りたくて、別の呉服屋に出店依頼をするつもりだった。でも、『ことぶき』のスペースに浴衣も少し出すからと言われ、我慢したのに…


「理由はなんですか?」
ムカつく!と思いながらも、無表情のまま訊ねる。

「東京で同じ時期にファッションショーがあるらしい。それに出られるようになったからと」

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