君の胃袋を掴む

それであの修羅場。もう誰が憐れなのか分からない。

暗い廊下を行き、昇降口まできた。
靴箱からローファーを出して落とす。

「信じる者は救われるのに」

その言い方が冷たく、革靴を履いた雅宗の横顔が寂しく、長い睫毛に苛つく。

「それを言って良いのは真実を話した人間だけでしょ。嘘をついた雅宗にそんなことを言う資格はない」

柄にもなく、説教みたいなことをしてしまった。

視線を感じてそちらを見ると、きょとんとした顔が向けられていた。居心地が悪い。

「……なに?」
「小梅ちゃん、僕専属のシェフに」
「断る」

面倒な人の胃袋を掴んでしまったらしい。

< 9 / 101 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop