聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったので、異世界でふわふわパンを焼こうと思います。



「ごめんね、アルベルトさん……私わけがわからなくなって、怖くて」

「うん」

「お父さんに会いたい、元の世界に戻りたい……」


 アルベルトさんは、私が異世界にいたことを知っている。だから私のは願いが叶うことはないと言うことも。


「困らせてごめんなさい……今のは忘れてっ」


 言葉にするともっとつらくて、これからもこの世界で生きていかなきゃいけないんだと実感する。


「俺はメルちゃんのお父さんに会わせることも、メルちゃんの世界に返してあげることも出来ない」

「……っ……」

「でも、メルちゃんはメルちゃんだよ。違う世界からきたとか関係ない。俺にとっては、美味しいものを教えてくれる大切な師匠だから」


 アルベルトさんは照れるようにそう言った。



< 37 / 141 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop