恋に異例はつきもので
「はじめて『ヤマモト』にいった日、お前に嫌味なこと言っただろう?」
「はい」

 そういえば、そうだった。
 なんか、もうずいぶん前の気がするけど。
「あの時ははっきり気づいてなかったが……」

 あっ、また前髪、かきあげてる。
 この仕草、ドキッとするほど好き。

 部長は煙草を灰皿に押し付けると、わたしをじっと見つめた。

「妬いてた。お前らに」
「嘘! あんなときから?」

 部長はわたしの頭に手を置いて、顔を近づけてくる。

 睫毛、長い……

「だって、考えても見ろ。まったく興味のない女を、無理してわざわざ異動させたりすると思うか?」

「それって、職権濫用ってことですか?」
「まあ、そうとも言うかもな。だが、『ヤマモト』の仕事にお前が必要だったのも事実だ。で、やっとこいつと一緒に仕事できると思ったら、社長がお前の元カレだからな」

「でも、部長、そんなそぶり、一度も……」
「お前、俺のこと嫌ってただろ? あのころ」
「嫌ってはなかったです。苦手だったけど」

「だろ? 俺は初めから負けると分かってる試合はしない主義だからな」
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